じつは、このカネモッチーはぜんぜん素直じゃないのだ。学生時代、先生の言うことを素直に聞かなかった。先生が言ってくることを、絶対の意地ではねかえした。子供のころから、そういうところがある人なんだよ。このカネモッチーは。
このカネモッチーは、人の言うことは聞かない。人の言うことを素直に聞くなんてことはない人なんだよ。ぜんぜん素直じゃない人なの!
意地のかたまり。負けずぎらい。人の言うことをはねのけて自分の意地を絶対に通す人。負けん気の強さだけは誰にも負けない人。
結果的には、それがうまい具合に働いて、カネを儲けることができた。
だいたい、このカネモッチーは、別のところで「人間はなめられたらおしまいだ」ということを言っている。これは、正しい。しかし、人の話を素直に聞いて行動する人は、なめられている人なのだ。
このカネモッチーは、本当はそういうふうに、考えている。認識している。自分が、言われる立場か、自分が言う立場かで、話が一八〇度違う。
たとえば、AさんとBさんがいたとする。そして、AさんがBさんになにかを言って、BさんがAさんの言うとおりに行動したとする。
この場合、このカネモッチーがBさんだったら、Aさんの言うことを聞かない。BさんはAさんが言ったことを、実行するべきだとAさんが思っている状態を、AさんがBさんのことをなめている状態だと、このカネモッチーは考えているのだ。
このカネモッチーは社員(従業員)としては、失格なのである。ダメ人間。経営者としては立派でも、社員(従業員)としては失格。
なめるということについて、もうちょっと説明しておこう。
たとえば、Bさんがずっと、Aさんの言うことを聞いてやってきたのに、ある日、Aさんの言うことを聞かなかったとしたら、AさんはBさんのことをどう思うか?
BさんがBさんの方法やBさんの考えにこだわって、Aさんが言うように行動しなかったということが起こったとき、AさんはBさんのことをどう思うか?
生意気だと思うだろう。
これが、なめているということなのだ。
自分の言うことを聞いていた人間が、さからってきた……そういうふうに感じるのは、それまでは、その人間のことをなめていたからなのである。自分が言うように動く人間だとみなしてきたということだ。これが、なめているということの「なかみ」だ。
人間はなめられたら、おしまい……このカネモッチーはそういうふうに認識している。人間は、なめられたら、だめだ……このカネモッチーはそういうふうに認識している。
素直さのかけらもないのが、この人! このカネモッチー!!
自分が人に言うことを聞かせる立場になったから、コロッと言うことがかわってしまっただけ。ほんとうは、絶対に人の言うことを聞かない性格をしている……。
そういう、ある意味こまった人なのだ。ほかの人が自分の言うことを聞くことはだいじだと思っているけど、自分は絶対にほかの人の言うことを聞きたくないと思っている人なのだ。
こういうカネモッチーの話を聞くときには、こういうことを理解しておいたほうがいい。
ちょっとだけ、「なめる」「なめられる」ということについて、書いておく。
「なめる」というのは、相手のことを下に見るということなのだ。
(1)自分のほうがケンカが強い。相手は弱い。→なめる
(2)自分のほうが頭がいい。相手はばか。→ なめる
(3)自分のほうが立場が上。相手は立場が下。→なめる
なめるというのは、自分のほうが優れていて、相手は劣っているとみなすということだ。なめられるというのは、下に見られるということだ。今回の話は、主に(3)にかかわることだ。(3)だけの意味しかないということではない。このカネモッチーは、いまや、会社のトップだ。会社には下の人しかいない。セミナーにくる人は、みんな、このカネモッチーの「信者」「生徒」みたいなものだ。このカネモッチーにとって、「上」の人じゃない。だから、「素直に人の話を聞くということがだいじ」などと、自分のことは棚に上げて言うことができる。
少年時代、このカネモッチーは絶対に先生の言うことを聞かなかった。この性格は、じつは今もかわってしまったわけではないのである。
たとえば、セミナー会場にきた信者Aが、このカネモッチー教祖に向かって「あなたは、こうするべきです」「こうしなさい」「素直に人の言うことを聞くということはだいじなことですよ」 と言ったら、このカネモッチー教祖は、信者Aの言うとおりにするかね?
たぶん、カネモッチー教祖は、「なんだこいつは!」と思って腹をたてるのではないかと思う。たぶん、怒って、信者Aが言ったことを、実行しない。へそをまげて、Aさんの言うことを素直に聞かない。
基本的には、じつは!助言と命令の区別はある。言われたほうが、自主的に判断する余地があるかどうかというのは決定的に重要なことだ。しかし、助言の場合でも、問題がある。
ここまでが前振りで、ここからが本番だ。