「過去の出来事は現在の状態に影響を与えない」という言い方のほかに「過去は記憶のなかにしかない」という言い方がある。
これも、おかしな話なのだ。
たとえば、Aさんが、Bさんを、一年前に殺したとする。Aさんが、Bさんを殺したということを、きれいさっぱり忘れてしまえば、Bさんが生き返るのかというとそういうことにはならない。
Aさんが、あるとき、Bさんを殺したなら、Aさんが、Bさんを(自分が)殺したという記憶をなくしたとしても、Bさんを殺したという出来事は発生したということになる。
Bさんがなくなったということが、事実なら、Bさんと関係があった人たちにとって、Bさんがなくなったということは、影響があることだ。
Aさんが、Bさんを殺したということを、完全に忘れたとしても、過去の出来事は、現在の状態に影響を与える。
「過去は記憶のなかにしかない」と言うけど、それは、どういう意味で言っているのだ?
記憶のなかにあるだけだから、過去の行動は、関係がないとでも言うつもりか?
記憶のなかにしかないことではなくて、現実世界で、実際やったことなら、その時点で、現実世界に影響を与えている。
影響がないわけではない。
たとえば、Aさんが三か月前に、一〇〇〇円の酒を買ったとする。
そして、Aさんが、「一日前に、自分が、一〇〇〇円の酒を買った」ということを、完全に忘れたとする。過去は記憶のなかにしかないことだから、現在の所持金に影響を与えないとでも、言うつもりだろうか。
たとえ、「一日前に、自分が、一〇〇〇円の酒を買った」という記憶が、完全にAさんの頭のなかから消えたとしても、「一日前に、自分が、一〇〇〇円の酒を買った」という出来事が、現実の出来事なのであれば、現実の出来事が発生したということになる。
忘れるかどうかなんて関係がない。そのとき、実際に、そのことが起こった。起こったということは、起こったということなんだよ。
なんで、「過去は記憶のなかにしかないから、過去は関係がない」と言えるのか?
忘れてしまったとしても、結果は残っている。
本人が忘れてしまったかどうかに関係なく、やったことはやったことだから、やったこととして、影響を与える。
本人にとって、些細なことなら、特に記憶にも残らないと思うけど、記憶に残らないから(やらなかった状態)にもどるわけではない。
記憶をなくしてしまえば、やらなかったことになるのかというと、そうではないのだ。
出来事が発生した時点で、出来事が発生したということだから、出来事が発生したことによる環境の変化がしょうじる。
出来事が発生した時点で、その出来事が発生した結果がしょうじる。
時間の区分は大切だ。出来事が発生した時点の「時点」というのは、なんなのかということは、問題になる。
しかし、いずれにせよ、過去の出来事は、現在の状態に影響を与えるのである。
本人が、おぼえているかどうかに関係なく、影響を与える。
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本人が、これこれこういうことをしたという記憶をうしなったとしても、記憶をうしなえば、やったことの効力が消えるわけではない。やったことの影響が消えて、やらなかった場合の状態もどるわけではない。
ところが、「過去は、記憶のなかにしかない」という言い方は、あたかも、本人が、忘れてしまえば、効力もなくなるような言い方なのである。
ある人が、なにかをやったとする。そうしたら、なにかをやったということになる。当然、やらなかった世界にはもどれない。記憶をうしなうだけで、あたかも、効力が無効化するようなことを言うな。やったことの影響がなくなるようなことを言うな。