「脳をだませばいい」という言い方がある。意味としては、自分の脳をだませばいいということだ。けど、自分の脳をだましているのは、自分の脳なのである。
ほんとうに、だまされているのだろうか。
これは、「お得理論」なのである。こうすれば、つらいことにも対処できるという対処理論なのである。
しかし、ほんとうに対処していることになっているのかどうかわからない。
たとえば、「口角をあげると、楽しいと感じる」ということを言ったとする。笑顔をつくるだけで、脳は「楽しいことが起こった」と勘違いするというメソッドだ。
だから、つらいことが起こったとき、自分で意図的に「口角」をあげれば、楽しいと感じることができるというメソッドだ。
まず、第一に考えなければならないのは、条件だ。どういう条件で、高角をあげるのかということだ。実験室で、高角をあげるわけではないのである。
日常生活の中で、つらいことがあったとき、高角をあげるということを推奨しているのである。実験室で、高角をあげる場合は、多少は、緊張するかもしれないけど、「特別にいやなことが起こったあと」でない場合が多い。
ようするに、自分の意思で、実験に参加しているわけで、その意味でも、余裕がある。心理的に余裕がある状態で、実験に参加しているのだ。
これは、日常生活の中で「つらいことがあった」場合とは、ちがう。降格を意識的にあげるということを行う前の心理状態がちがうのである。
実験室で、特別にいやなことが起こらなかったあと、高角をあげるということをしてみたときの感情と、日常生活の中で、腹が立つことがあって、そのあとに、高角をあげる場合は、心理状態が明らかにちがうと言える。
まあ、特に、いいことも、いやなこともなかったという意味で、中立的な状態のとき、高角をあげることと、特別に不愉快な状態で、高角をあげることは、ちがう意味をもつのだ。
もうひとつ言いたいことは、自分の脳が、自分の脳をだますということだ。これ、意図的にやっているのに、だまされちゃうの?
おかしいと思わない。意図的にやろうとして、意図的にやっているのも、脳なんだよ。降格をあげたとき、ある、脳の部位が反応したとする。笑っているときも、その脳の部位が反応した。
だから、その部位が反応しているときは、人間は「楽しい」「おかしい」と感じている……と結論づけていいのだろうか。その部位は、高角をあげるときに反応する部位なのかもしれないのである。
人間の場合、まず、自然な感情があり、自然な感情に対応した(筋肉の運動)が、自然に発生する。
これは、別に、教わったわけではないのである。ごく自然に、そういうことになる。
もっとも、感情と筋肉の運動が、普通の人よりも、連合していない人もいる。
しかし、一般的には、やはり、多くの人が、だれから教わるでもなく、楽しいときは、笑顔をつくるときの筋肉を動かす。「だれから教わるでもなく」ということは、重要だ。
最初は、意図的に、やっていることではないということを、意味しているからだ。最初は、意図的にやっているのではないのに、感情に対応した表情菌が動くのである。この反応は、(たいていの)人間にとって所与の反応なのである。
いっぽう、「つらいときは笑ったほうがいい」と思って、無理やり降格をあげるときは、「効果を期待した」行動をしているだけなのである。
自然に笑っているときの脳の全体的な反応と、効果を期待して降格をあげるときの脳の全体的な反応は、ちがうのではないかと思われる。
どうしてかというと、効果を期待して、高角をあげているからだ。これは、感情にもとづいた、自然な筋肉の動きではない。
そして、脳は、自分がどうして、高角をあげたのかということを知っているのである。楽しいと思って、意図せずに、高角をあげるような筋肉を動かしたときの「全体的な脳の反応」と、効果を期待して高角をあげるような筋肉を、意図的に動かしたときの「全体的な脳の反応」はちがうはずなのだ。
はっきり言ってしまえば、意図的に高角をあげようとしているのだから、脳は、その意味を知っている。だまされていない。
楽しいと思って、意図せずに、高角をあげるような筋肉を動かしたときの脳の動きと、効果を期待して高角をあげるような筋肉を、意図的に動かしたときの「全体的な脳の反応」はちがうはずなので、ほんとうに、脳が「楽しく感じている」のかどうか、わからない。
所与の反応として、楽しいときは高角があがる。高角をあげるような脳の部位が反応している。楽しいときは、高角をあげる(脳の)部位が活性化?する。
なら、高角をあげる(脳の)部位が活性化すれば、楽しいと感じると言い切ることができるか?
できない。
所与の反応として、楽しいと感じるときは、脳のほかの部位が楽しいと感じているのかもしれないのである。
楽しいと感じるときに働く脳の部位全部(から)高角をあげるときに働く脳の部位をひいたとする。 楽しいと感じるときに働く脳の部位全部(から)降格をあげるときに働く脳の部位をひいた部位のことを、「引いた部位」と呼ぶことにする。
そうすると、ほんとうに、楽しさを感じさせているのは、「引いた部位」かもしれないのである。
楽しいと感じているときに、高角をあげる脳の部位が活性化する……だから、高角をあげる脳の部位が活性化しているのであれば、(人間は)楽しいと感じていると言えるのかというと、言えない。
言えるわけがない。
必要十分条件について考えようということになる。言えると思っている人は、必要十分条件だと思っているかもしれないけど、この場合は、必要十分条件ではない。