ほんとうに、きちがい兄貴が「きたないやつ」で、自分が「非常識なでかい音」で鳴らしたかった場合は、無意識的なレベルで嘘をついて、「普通の音で鳴らしている」と思って、「非常識なでかい音」で鳴らしてしまうのである。
そして、「うちの場合」そういう「脳みそのくせ」をもっている人間が兄貴だけではないのだ。親父も、おなじ「脳みそのくせ」をもっている。
これ、兄貴がヘビメタでやったことは、親父がほかのことでやっていたことなのだ。だから、「そういうやり方」は「うち」のなかでは、「なじみがある方法」なのである。
だから、「うちのなかでは、それであたりまえ」という……これまた、都合がいい無意識と意識が成り立ってしまうことになる。
そして、重要なのは、よその人が、兄貴の「脳みそのくせ」をまったく理解しないことだ。だから、よその人は「そんな音で鳴らすわけがない」とか「言えばちゃんとわかってくれる」とかと、考えてしまう。だから、ギャップがある。兄貴の「脳みそのくせ」と世間の人の「家族とはこういうものだ」という解釈の間に、ギャップがあるのである。
ちょっとでも、ほんとうにしずかにしなければならない……ようなことを言われたら、発狂してはねのけるのである。きちがい兄貴はそうなのである。
ちょっとでも、自分が鳴らしている音がでかい音だということを認めなければならないようなことを言われたら、発狂して、はねのけて、それでおしまいなのである。
これは、親父の態度とおなじなのである。
これは、親父の反応とおなじなのである。
「やっているやつら」は、ぜんぜん、そんなことをしているつもりがないのである。これも、ほかの人がわかってくれないところだ。そして、くそおそろしいことに、当のきちがい兄貴がわかっていないのだ。自分はそんなことをしていないと、思っている。
けど、常にそうなるんだよ。
きちがい兄貴は、無意識的には、でかい音で鳴らしているということがわかっているので、「よそのうち」では、鳴らさないのである。
きちがい兄貴が、きちがい兄貴が「いま」住んでいるマンションで、当時とおなじ音で鳴らせるかというと、一分も鳴らせないのである。きちがい兄貴が「いま」住んでいるマンションで……やったら、一日で、問題になることなのである。
それが、「うち」では、何千日も問題にならなかった。親父はきちがいだから、これまた、普通の人とはちがう反応をしてしまうのである。
そして、それも、普通の人にはわからないのである。わからないことなのである。親父の、兄貴の騒音に対する反応というのは、奇妙奇天烈なものだ。普通の親でもないし、普通の人間でもないのだ。親父はくるっている。
けど、ほかの人にはわからないから、ぼくがへんなことを言っていると思うのである。
「ちゃんと言えばわかってくれるよ」という言葉が、どれだけひどい言葉なのか……俺にとってどれだけ、ささる言葉なのか……普通の人はわからない。「ちゃんと言えばわかってくれるよ」という言葉を、発する人は、わからない。わかるわけがない。
* * *
きちがい兄貴なんて、よそのうち」では鳴らせない音で鳴らしていたということが、いまだに、わかっていないのである。
「よそのうち」と言っても、きちがい兄貴が「いま」住んでいるマンションは、「よそのうち」なのである。実家ではない家や実家ではないマンションや実家ではないアパートは、「よそのうち」なのである。
きちがい親父が建てた「このうち」以外の「住処」は、「よそのうち」なのである。よそのうちだと、普通にしずかにできるのである。普通に気をつかうことができるのである。
けど、「うち」だと、絶対に気をつかうことができないのである。一秒だって、ゆずってやってやるということができないのである。
一秒間でも、相手が言うとおりにゆずってやったら、憤死するような騒ぎなのである。
憤死するような意地なのである。悪いと思ってないんだよ。 本人が、そういう意地をもっているということに、まったく気がついていない。
本人が、そういう意地をもっているということに気がつかないということもセットで、やっていることなんだよ。絶対に、言われても気がつかない。どれだけ言われても気がつかない。
そして、うちの人に言われたら気がつかないけど、よその人に言われたら気がつくかというと、気がつかないのだ。よその人に言われたって、気がつかない。
実際に、自分が、自分の意地に従って……「ものすごくでかい音で鳴らしている」ということには、気がつかない。
そして、「ゆずってやる」問題が発生する。これも、意地悪をするつもりはないのだけど、きちがい的な意地で意地悪なことをするのである。
これも、どれだけ、悪意丸出しなことをやっても、本人は、「本当にゆずってやった」と思っている状態なのである。これ……。
ほんとうは、まったく、ゆずってない音で鳴らしているのに「ゆずってやった」「ゆずってやった」「ゆずってやった」と言い張る。そんなわけがないのである。きちがい兄貴がゆずってやった音というのは、よそのうちでは、絶対に一分間だって鳴らせない音なんだよ。