うんと手短に言ってしまうと、「運をあげる方法」として語られているものは、ブラック社長が言っていることなのである。
「ポジティブ言葉を使え」「ニコニコしろ」「素直に受け取れ」「感謝しろ」「会社が悪いと思うな」「他人が悪いと思うな」「自己責任だと思え」「ネガティブ言葉を使うな」「ネガティブ言葉を使っているやつとつきあうな」「人に親切にしろ」……全部、ブラック社長が言っていることだ。
名前だけ店長を、自殺までおいつめた言葉と、「運をあげる方法」に書かれている言葉はおなじなのである。
「ネガティブ言葉を使うやつとは、距離をたもて」というのは、けっこう問題のある言葉なのだ。これも、正しいと思ってしまう人が多いのだけど、問題がある言葉だ。まあ、説明しにくいのだけどね……。
基本的に、社内のくるしい状態というのは、ブラック社長が作り上げていることなんだよ。ブラック社長が、利益をえたいので、そうしているだけなんだよ。みんなが、くるしむような作業量を、少ない賃金でおしつけているんだよ。
「ポジティブ言葉を使えばいい」というのも、ポジティブ言葉を使うことによって、たいへんなことをおしつけられているのだ。従業員がポジティブ言葉を使って、がんばると、ブラック社長が儲かるのである。
じゃあ、ポジティブ言葉を使っている従業員が、しあわせなのかというと、そうではないのだ。
ポジティブ言葉を使っている従業員が、「できるできる」と言って残業をすることによって、ポジティブ言葉を使っている従業員は、つかれてしまうのである。「できるできる」とポジティブな言葉を使わずに残業をしない状態よりも、つかれてしまうのである。
そして、それが、毎日続けば、毎日「よりつかれる」状態が続いてしまう。ポジティブ言葉によって、疲労がたまっていくのである。
これは、ほんとうに楽で、楽しい仕事をしていて、自然とポジティブな言葉が出てくる状態とはちがうのだ。
たとえば、ポジティブ言葉を使わずに、残業をしなければ、そのぶんだけ、つかれないのである。つかれてしまうのは、「できるできる」とポジティブ言葉を使って、自分をはげまして、残業をするからなのである。
なので、「できるできる」とポジティブ言葉を使うということは、この場合は、そのぶんだけ、つかれるということを、実際には意味しているのである。
「できない」とネガティブ言葉を使って、残業をしなければ、そのぶんだけ、つかれないのである。
「ポジティブ言葉を使うと、しあわせになる」と言うけど、ポジティブ言葉を使うからこそ、残業が増えてしまうのだ。
そして、「残業をやらなければならない」という気持が増すようになっている。
一日は二四時間なので、時間的には、限界がある。その限界値すれすれで、がんばったって、つかれるだけなのだ。そのつかれた状態というのは、ネガティブな状態なのだ。不幸な状態なのだ。
わからないかな?